peco/ぺこ『My Life』(祥伝社, 2024)
このWEBページは、ライターMiccoがpeco/ぺこさんの著書『My Life』 を読んだ感想を書いておすすめしている記事です。
ロールモデルとなる考え方の女性はいますか?
「誰か、自分の考え方のロールモデルになるような女性っていないんですか?」
そう聞かれたとき、あなたは誰を思い浮かべますか?
わたしは、そう聞かれたとき、パッと思いつかなかったんです。
美人でスタイル抜群のモデルさん、演技や作品がすきな女優さんはいても、「考え方」をロールモデルしたいと思えるくらいの推しもいなけりゃ、フォローしている人もいなかったんですね。(要はあまり他人に興味を持ってなかった)
ロールモデルにしたい考え方を持つ女性かぁ…
peco / ぺこさんを再認識したきっかけ
頭の片隅に置きながら過ごしていると、Youtubeのオススメでpeco(ぺこ)さんが出ている動画が出てきました。
内容は、pecoちゃんがイングリードという英語コーチングサービスを使って、英語を頑張って勉強して、その3か月間の学習成果として、アメリカLAのディズニーランドに行って話すチャレンジをするというもの。
過去の英語力との比較のために、ryuchell(りゅうちぇる)さんが映っている動画があったんです。
ラプンツェルのグリーティング(キャラクターたちと写真撮影をしたり、サインをもらったり、少しの時間会話をしたりすること)で、感動のあまり喋れなくなっているpecoさんをりゅうちぇるさんが支えながら、”She loves you! She loves you!” とラプンツェルに伝えているという動画です。
あの瞬間だけで、ryuchellさんの優しさが伝わってくるものでした。また、ryuchellさんが映っている動画を流すことができるんだ、という…pecoさんがあの悲しい出来事を乗り越えているのかな、と。
2016年12月28日にpeco(ぺこ)と結婚して一児を設けるも、2022年8月25日に「父親であることは心の底から誇りに思えるのに、自分で自分を縛りつけてしまっていたせいで、夫であることには、つらさを感じてしまうようになりました」と妻pecoにカミングアウト。
協議のうえ、離婚届を提出後は、人生のパートナーとして同居は継続し、新しい家族の形を実践していたが、2023年7月12日午後5時30分頃、東京都渋谷区の自宅兼所属事務所で死亡しているところが発見された。27歳没。
正直、ネットニュースで騒がれていること以上のことを知らなかったです。
ryuchellさんやpecoさんのことを詳しく知らず、ただ離婚騒動のニュースを見て「pecoさんって人間大きいなぁ、できた人だなぁ、すごいなぁ…」と思っていただけでした。
また、ryuchellさんが亡くなった際には、Instagramでファンに生の声を届けるなど、一番つらいときにも行動できるなど、勝手ながら「イマドキっぽいのに、ちゃんとしている」というイメージでした。
pecoさんが本を出版されていると知って、初めて知りたいと思ったんです。
- 一生を誓った相手からLGBTQに対するカミングアウトをどう受け止めたのか
- 相手を受け容れたうえで、新しい家族の形を実践するまで、どう考えていたのか
pecoさん、人生、何週目ですか?
本を読んで、まず、思ったのは、pecoさんがやっぱりすごい。人生何週目!?というくらいの包容力というか、人間力というか…。
人間力というと抽象的すぎて難しいですが「ありのままの相手を受け容れ、愛する力」がすごいなと私は思いました。しかし、pecoさんは著書の中で
「なぜpecoちゃんはそんなに寛大でいられるの?」「pecoちゃんは優しすぎるよ」と言っていただくことがありました。でもそれは違っていて、わたしはそもそも人に対して、寛大でも優しくもありません。
(中略)
ryuchellは、「コップに愛を満たそう」と口癖のように言っていました。自分(=コップ)の中が空っぽだと人に愛をあげられないということの喩えでしたが、小さい頃から家族に愛され甘やかされて育ったわたしのコップはもともと満タンで、そこにあふれんばかりの愛をさらに注いでくれたのが、ryuchellだったんです。
ありえないくらいの優しさと、誰のことも否定しない包容力と、信じられないほどの共感力。世界の誰よりもわたしのことをわかってくれて、支えてくれて、引っ張ってくれた。もちろんカミングアウト後にはぶつかることも多かったし、頭にくることもいっぱいあったけれど、それでも優しさは変わりませんでした。今までと違ったかたちではなっても、愛情はしっかり感じていました。
ありのままの相手を受け容れ、愛する力は、ryuchellさんがpecoさんにくれたものだと言うんですね。
わたしからすれば、
いや、ryuchellさんもpecoさんも、どっちも包容力・愛する力がすごいのよ…
っていう感じなんですけど。
愛情のコップは満タンですか?
どんなに他者から見て恵まれた環境であったとしても「わたしの愛情のコップは満タン」ってなかなかハッキリ言える人は少ないと思います。
わたし自身は「両親は愛情を注いでくれたけど、わたしのコップには穴が開いている」って感じですかねw コップに欠陥があるのは自分の責任です。
『My Life』の本編であるCHAPTER1~CHAPTER5は、ryuchellさんが亡くなる前に書かれていた原稿がそのまま書籍化されており、PrologueとEpilogueがryuchellさんが亡くなった後に執筆されたようです。
そのためなのか、pecoさんが
- 一生を誓った相手からLGBTQに対するカミングアウトをどう受け止めたのか
- 相手を受け容れたうえで、新しい家族の形を実践するまで、どう考えていたのか
が、しっかりと書かれていました。
少し驚いたのが、ryuchellさんに「夫を辞めたい」と言われたpecoさんが、すんなりと受け止めることができたわけではない、ということでした。
わたしは勝手にpecoさんのことを聖人のように思っていて、元々LGBTQやジェンダーレスに寛容だったからこそ、身近な人のカミングアウトに対してもすっと受け止め、新しい家族の形を提案して実践できたのかなと思っていました。
でも、実際には全然違いました。何度も何度も話し合い、泣きながらも、ryuchellさんと息子さんの幸せをいちばんに考えて、受け止めたことが書かれていて。
等身大のpecoさんの悩み・苦しみと、それを消化して昇華していく過程がしっかりと書かれいて。
あぁ、やっばりpecoさんってすごいなぁ…と、本を読む前よりも一層強く思ったのでした。
多様性を善とすることの自己矛盾
息子は今は、「プリンセスが女の子でも男の子でもいいじゃない」と言ってくれる、わたしたちにとってはとても素敵だなと思う考え方をしてくれていますが、もしかしたら数年後、男はこうあるべきだ、女はこうあるべきだと、そういう考えになることもあるかもしれない。
確かにわたしやりゅうちぇるとは考え方は違うけれど、でもそれも決して間違っているわけではなくて、「それがあなたの考え方なのね」とわたしは受け入れたいと思っています。「多様性」と言われるものを善しと受けいれることことだけが正義なわけではないとわたしは思うし、考え方や在り方の違う人を否定するのではなく「そうなのね」とただそれだけでいい、それが「多様性」なのかなとわたしは思っています。わたしはね!
多様性を善とすることは、pecoさんも言うように「男とはこうあるべきで、女とはこうあるべきだ」という昔ながらの昭和的な考え方の人をも受け容れる、ということに他なりません。
多様性を認めろ-!っていう主張は、
「だったら、旧来の考え方も多様性とやらで受け容れて?で、今は、お宅が主張する多様性を認めない政権与党なんだから、これが民意ってやつよ?」
と言われても、揚げ足取り?のようにされちゃう気がしてたんですね。
pecoさんのこの文章を読んだとき、もしかしてそれを言われてきたのかな、と感じました。
じゃないとこんな文章、出てこなくない?
自分とは異なる思想、イデオロギーを持つ人を受け容れることは容易なことじゃないと思います。遠くの他人ならともかく、身近な家族なら、なおのこと。
わたしが言ってもきれいごとに過ぎない、机上の空論になってしまうそれも、実践してきたpecoさんだからこそ、こんなにも「できた人だなぁ」って思うんだと感じています。
まとめ
pecoさんのことを
- ちょっと変わった原宿系のメイクやファッションをしたイマドキの女の子
- ネットニュースでしか知らない
- イイトコのお金持ちのお嬢さんなんでしょ?
っていうレベルでしか知らない人にぜひ読んでほしい『My Life』
人生を誓い合ったパートナーから、自分とは異なる価値観をカミングアウトされたときに、自分だったら、どう受け入れ、どう対応できるんだろうか。
ここまで立派な考え方までは至らずとも、みじんこサイズで小さい人間でも、少しは他人を受容するキャバシティをつくろうと思ったMiccoでした。